脊髄性筋萎縮症(SMA)とは?
1.概要
脊髄性筋萎縮症(SMA:spinal muscular atrophy)は、脊髄の前角細胞の変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン病である。上位運動ニューロン徴候は伴わない。体幹、四肢の近位筋優位の筋力低下、筋萎縮を示す。発症年齢、臨床経過に基づき、I型、II型、III型、IV型に分類される。原因遺伝子としてSMN1遺伝子が同定されている。発症頻度は約1/20000出生とされている。
2.原因
原因遺伝子として、SMN1遺伝子が同定されている。I、II型の SMA の95%に、SMN1遺伝子のホモ接合性欠失を認め、遺伝子診断が可能である。頻度は少ないがSMN1遺伝子に点変異をもつ例もある。またSMN1遺伝子の近傍には、NAIP遺伝子、SERF1遺伝子などが存在し、SMAの臨床症状を修飾するといわれている。早期に重症な呼吸障害を示す I 型の一部において、IGHMBP2 の遺伝子変異を示す例がある。III、IV型においては、SMN1遺伝子変異が同定されない例も多く、他の原因も考えられている。
3.症状
- I型:重症型、ウェルドニッヒ・ホフマン(Werdnig-Hoffmann)病。 発症は出生直後から生後6か月まで。フロッピーインファントを呈する。定頸の獲得がなく、支えなしに座ることができず、哺乳困難、嚥下困難、呼吸不全を伴う。舌の線維束性収縮がみられる。肋間筋に対して横隔膜の筋力が維持されているため吸気時に腹部が膨らみ胸部が陥凹する奇異呼吸を示す。深部腱反射は消失する。上肢の末梢神経の障害によって、手の尺側偏位と手首が柔らかく屈曲する形のwrist dropが認められる。生命維持のためには、2歳までにほぼ全例で人工呼吸管理が必要となる。
- II型:中間型、デュボビッツ(Dubowitz)病。発症は1歳6か月まで。支えなしの起立、歩行ができず、座位保持まで可能である。舌の線維束性収縮、手指の振戦がみられる。深部腱反射が減弱または消失する。次第に側彎が顕著になる。より重症な症例では、呼吸器感染に伴って呼吸不全を示すことがある。
- III型:軽症型、クーゲルベルグ・ウェランダー(Kugelberg-Welander)病。発症は1歳6か月以降。自立歩行を獲得するが、次第に転びやすい、歩けない、立てないといった症状がでてくる。後に上肢の挙上も困難になる。歩行不可能になった時期が思春期前の場合には、II型と同様に側弯などの脊柱変形が顕著となりやすい。
- IV型:成人期以降の発症。成人から老年にかけて発症し、緩徐進行性に筋萎縮、筋力低下、筋線維束性収縮、深部腱反射低下を呈する。SMAは、それぞれの型の中でも臨床的重症度は多様である。
4.治療法
以前は根本的治療がなかったが、2017年よりヌシネルセン(スピンラザ®)という核酸医薬品が発売され、2020年からはオナセムノゲンアベパルボベク(ゾルゲンスマ®)という遺伝子治療薬が発売された。両者とも投与により、自然歴と比較し運動機能獲得が有意に優れ、永続的人工呼吸管理のリスクが有意に低下したと報告されている。対症療法としては、筋力にあわせた理学療法、装具の使用がある。呼吸筋力低下に対し、非侵襲的陽圧換気療法、排痰補助装置を使用する場合がある。嚥下機能低下により経口摂取が困難となれば経管栄養を行う。脊柱変形に対しては脊柱固定術が行われる場合がある。
5.予後
治療法ができたことにより、予後は著しく改善している。運動神経細胞の変性が進むと治療を行っても回復は難しいため、できる限り早期の治療が望ましい。I、II型でも発症前、あるいは発症早期に治療を行うことで、歩行可能例も報告されている。米国、台湾など新生児マススクリーニングが実施されている国もある。
6.リンク
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